[小説] 幽霊列車とこんぺい糖―メモリー・オブ・リガヤ
2008年1月31日 読書ボクがこいつを『幽霊鉄道』として、甦らせてみせる。
ISBN:482916400X 文庫 木ノ歌 詠 富士見書房 2007/10 ¥588
寂れた無人駅のホーム。
こんぺい糖。ひまわり畑。
そして、あの廃棄車両。
リガヤという名の、不思議な彼女を連想させる四大要素。
思えばそこから、あたしの夏は始まった…。
なんだったか忘れたけど、たしか『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を読んだひとはこれも読んでみるといいよ…なんてことが書いてあったので、読んでみました。
そんなお薦めだったので、同じような系統だろうなと思った。
2007年7月某日。
主人公の有賀海幸(あるが みさち)は自殺志願者、電車にひかれて死のうと駅にいったら、その線路は廃線になっていた。
そこで「リガヤ」と名乗る少女に出会う。
リガヤは放置された車両を幽霊列車としてよみがえらせようとしていた。そして海幸の願いもかなえることも…。
こ
こ
か
ら
先
は
ネ
タ
バ
レ
で
す
。
◇
海幸は自殺志願者である。死のうと思うからにはそれなりの理由がある。
海幸は母親との二人暮し、父親は誰だか不明。
生理不順で味覚障害をもつ女子中学生。
誰にも知られることもないまま、母親のチコちゃんに産み落とされる。
チコちゃんは一切海幸の面倒をみず、祖母に育てられた。
祖母は海幸が小学校にあがったくらいに亡くなる…「チコちゃんをお願い」というひとことを残して…。
海幸という名前はチコちゃんがつけた…海の幸が好きだから…。
チコちゃんはみんなに「チコちゃん」と呼ばせている。
生活能力がなく、ホステスとして働いているが…たぶん、働いているとは思っていないだろう。
童顔で、もう30歳だが、20歳と偽っている。
家事全般は海幸がやっている。チコちゃんは海幸に甘えている。まるで娘が母親に甘えるように。
生まれのせいでいじめられることが多かった海幸は半分あきらめている。
一方、わりと明るい感じのリガヤだが…実は、いろいろ抱えている。
本名、里ヶ谷千夏。「リガヤ」という自ら名乗るあだ名はここからきている。
この町の出身で、現在は両親とともに東京住まい。
中学時代まで、この町にいた。
姉が一人居たが、精神を病んでいて…男をたぶらかす、魔性の女?
4年前、その姉は、妻子ある若い精神科医とともに車で舞奈鉄道の電車に突っ込み、心中する。ウェディングドレスとタキシードで…。
姉、千織とリガヤは異常なくらいに仲が良かった。
コンペイトウを溶けるまで二人の舌に挟んで遊んでいたらしい。(はためにみれば、キスそのままに見える)
「リガヤ」とは千夏(リガヤ)が姉だけに呼ばせていた名前だった。
いまはその名を海幸に呼ばせている。
海幸は千織に似ているらしい。
「千夏をつれていかないで」
そういったのは海幸のバイト先「LIGAYA工房」の店主、厨川由布子(くりかわ ゆうこ)さんだった。実はリガヤの従姉であり、この店の看板とパンを焼く石窯を作ったのははリガヤなのだった。(この店の名も)
○海幸の不幸
海幸の不幸は誰にも想ってもらえないことなのではないだろうか?
母親であるチコちゃんはまず、海幸を娘だと思っていないに違いない。
甘えているだけ、世話をしてくれるひと…そんな感じじゃないだろうか?
(でなかったら、育児放棄しないと思う)
祖母は「チコちゃんをお願い」と言って死んだ…チコちゃんのために、自分の替わりとして家事を教えた。
由布子さんは「千夏をつれていかないで」と。
まぁ、他人よりは血縁を優先するのはわからないでもないが。
海幸のことは心配してないかのように。死んでしまった千織と同じ匂いを感じていたのに。
リガヤは「リガヤ」て呼ばせて気を許しているが…リガヤがみているのは海幸ではない。海幸が似ている千織をみている…。
そんなわけで、海幸は誰にも想われていないと思うのだった。
○解放に向かう物語
このレビューの冒頭で、『砂糖菓子〜』のことを書いたが、この『幽霊列車〜』は、『砂糖菓子〜』や『少女には向かない職業』(どちらも桜庭一樹著だが)とは違うところがある。
それは解放に向かう物語であること。
終盤に向かって、死の香が大きくなっているが…。
最後には解放に向かう。
それは海幸の意志だ。
リガヤに向き合い、包み込む。
そして愛が生まれる。
海幸の味覚障害はそれで治ったんじゃないだろうか?
この展開はある種のものをもっている人には大歓迎である。
もっとも、作中に男性がほとんど出てこないので…容易に想像がつくのかもしれないけど。
語られないが…つづきが思い浮かぶように読了した。
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